ぺんぎんの音楽日記

クラシック音楽について、絵画や鳥たち、日々の生活について自由に書いていこうと思います。

「指環」 ~5~

いよいよ、最終日の「神々の黄昏」です。
先週、見に行ってまいりました。初日でした。平日ですが4時からの開演に多くの人が待っていました。
観劇しながら、新国立劇場の舞台の奥行き、なんて深いんだろうと思いました。
まだ、見ていらっしゃらない方にネタバレになってはいけないので、詳しくは書きません。
                                
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ラインの黄金」のときから、謎だったジグゾーパズルのピース、フィルム、など、最後の最後で再び登場しました。現代アレンジものの面白みはこんなところにありますね。
もちろん、音楽は楽しめましたし、演奏も素晴らしかったです。
ジークフリート歌いは少ないと聞きますが、声もそうですが、体力も相当必要でしょうね。途中45分ずつ2回の休憩は歌手にとって最低限必要な休息でしょう。
最後の最後まで、声も演奏もすばらしいままで歌いきるには。
オーケストラの演奏も素晴らしかったです。今回はホルンなど金管楽器が大変活躍します。どれも、素晴らしい音色、演奏でした。かなり練習してるのを感じました。管楽器はパンダでも活躍、しかし、シュティーアホルンってなんだ?もしかして、私の席からは見えなかった客席寄りに出っ張ってたというのがそう?
時々、ピットより近いところで鳴るのが聞こえたのだけど、
曲自体が、今までの集大成で大変規模も大きく、厚みのあるものですが、それをきっちり演奏して聞かせてくれました。
    
指揮はダン・エッティンガー、演奏は東京フィルハーモニー
ジークフリート・・・クリスティアン・フランツ 
ブリュンヒルデ・・・イレーネ・テオリン
アルベリヒ・・・島村武男
グンター・・・アレキサンダー・マルコ=ブルメスター
ハーゲン・・・ダニエル・スメギ
グートルーネ・・・横山恵子
ヴァルトラウデ・・・カティア・リッティング
ラインの乙女・・・大林智子、平井香織、池田香織
ノルン・・・竹本節子、清水華澄、緑川まり
 
 
序幕でノルンたちが神々の週末が近いことを予言。また、旅立つジークフリートブリュンヒルデが送る、それが二人の最後の仲むつまじいひとときとなってしまうのだが、、、ここで、意気揚々たるジークフリートを表す「角笛の動機」が出てきます。
それぞれの場面の動機もあり、物語と音楽とのかかわりが密接です。
行動よりも、その心の動きを音楽で表しているようです。そもそも、「ジークフリート」以降は、やたら台詞が多いです。舞台では動きがあまりなく、それぞれがそれぞれの思いや気持ちを歌で伝えていく、そういう場面が多いので、意味がわからず聞いていると眠くなるかもしれません。
 
第1幕 ギービッヒ(ニーベルンゲンの歌ではブルグンド)にて、世間知らずのジークフリートはハーゲンの罠にはまり、忘れ薬を飲まされて永遠の愛を誓ったブリュンヒルデのことを忘れてしまう。グンテル王と兄弟の誓いを交わし、その妹グートルーネ(クリームヒルト)に求婚してしまう。
これは、一見ジークフリート自身には罪が無いように思えるのだけど、自己中心的な彼自身の性格(これが実は彼の一番の弱点?)から自分より賢くて強いブリュンヒルデより、御しやすいグートルーネを選んだ、とも考えられますよね。
グンテルはブリュンヒルデを妻にしたいと望み、ジークフリートは隠れ蓑を使ってグンテルの変わりに炎の岩山を越えて、ブリュンヒルデを力づくでグンテルに引き合わせる。その際、自分がブリュンヒルデに与えた指環を抜き取る。
この愚かな行動のおかげで、ブリュンヒルデにすべてを見破られ、怒り狂った彼女に逆にジークフリートに手篭めにされたと告発されてしまう。
立場を失ったグンテルに、ジークフリートの指環が欲しいハーゲンはジークフリート殺しを唆す。

ジークフリートはギービッヒに出入りして、宮廷風作法を身につけ、第2幕ではラインの乙女たちをからかうほどに、女性に対しても上手に対応するようになった。
愛想よく調子よく話し、粗野な口を利き、ガマンを知らない暴力的な青年は社交的な大人に成長する。前作「ジークフリート」に出てきたジークフリートとはかなり違ってきています。
が、まだまだ中身はハーゲンのよこしまな心を見破るほどに成長してはいない。
まんまとハーゲンの術中にはまり、ぺらぺらと過去を話し、ブリュンヒルデと結婚していたと言ってしまう、、
虚偽の誓いをしたという廉で彼はその場でハーゲンに殺されてしまう。
 
第3幕 ジークフリートの動機が重苦しく流れ、遺体がギービッヒに運ばれてくる。
                                
http://www.youtube.com/watch?v=sC13kU43vmY
早速、ジークフリートの指環の奪い合いが始まる、ハーゲンはグンターを殺す。
そこへ覚悟を決めたブリュンヒルデが登場、グートルーネは、ブリュンヒルデをなじるが、振り払われて、グンターのそばに倒れる。
ジークフリートの遺体に薪が置かれていく、松明で火がつけられ、燃え上がる。、
指環を狙うハーゲンを振り払い、指環ごとブリュンヒルデジークフリートの後を追って火の中へ入って行き、そして、火の中から指環はラインの乙女たちのところへと帰っていくのです。
ハーゲンはどうやら、ラインの乙女たちによって川底へ引き込まれたようです。
                                 
 
こうして、登場人物は全部死んでしまいます。
だから、「ニーベルンゲンの歌」の前半までしかないのですね。後半は復讐劇ですから、ここで、いっそ、みんな死んでしまった方が、物語として後腐れがなくてよいのかもしれません。
「神話や伝説を捻じ曲げた」、という批判もあったそうですが、きちんと伝説を踏襲し、独自の解釈は加わったとしても、物語は忠実であると思いました。
最後のシーンでは、弦の響きによる「愛の救済の動機」が、地平線上に横に広がる太陽光のように、または、広い海面上をを水平にさざめく波のように広がっていくのが大変感動的です。
ハリウッド映画の終わりのようだといわれればそんな感じですが。
                               
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2幕と3幕では、力強いグンターの部下たちの男声合唱がいっそう場面や音楽を盛り立てます。素敵な合唱でした。
最後は本当に素晴らしかったですね。
ずうっと拍手をしていました。

このシリーズを最後まで見ることができて本当によかったです。
ワグナーの素晴らしさを実感できましたし、その音楽をより理解することができたと思います。
たとえば、それぞれの動機、これのおかげでとてもわかりやすいです。そして、音楽と人の心模様との一致、さらには、本当に年月をかけた音楽だったのだということも、その音楽の変化を見て取ることができて、素晴らしいと感じました。
最後にブリュンヒルデが、裏切られたけれどもそれでも愛するジークフリートを追って自分も死を覚悟するところの音楽は、「トリスタンとイゾルデ」の「イゾルデの愛と死」を思い出しました。
若い頃の血気盛んな元気なワグナーもよいのですが、後期の円熟したワグナーの音楽をもっと聴きたいと思いました。