ぺんぎんの音楽日記

クラシック音楽について、絵画や鳥たち、日々の生活について自由に書いていこうと思います。

「指輪」 ~2~

さぁ、「指輪物語」ですが、同時代のファンタジーナルニア国物語」とは、かなり内容も傾向も異なります。
つまり、その違いで「指輪物語」は一気に読んだのですが、「ナルニア国物語」はあまり読まなかったのです。
指輪物語」は、独自の世界まで創ってしまったのですが、その内容の端々には、伝統的な指輪にまつわる物語や、考え方が生きていると思うのです。
神学者でもあったCSルイスの「ナルニア国物語」は、神話のような架空の世界を作り出してるにもかかわらず、ベースには聖書があって、現代の現実の社会と行き来することで、20世紀のモラルの制約まで感じてしまうのです。人によっては、より身近に感じることで、その世界に入りやすいと言う人もあるでしょう。
でもね、ファンタジーは、もっと夢があるほうが入り込める気がするのです。
指輪物語」は、独自の世界観の中で、現実の何ものにも制約されず、最大限にファンタジックなのに、キリスト教化される以前の異教的な世界がそこにはあります。
つまり創造された世界であっても、にわか作りのちゃちなものでなく、確かに伝統を感じさせる奥深いものがあるのです。
 
指輪物語」の指輪は、指輪の持ち主に権力や不思議な力を約束してくれる、という魅力、いや魔力をもって、人の心を誘惑し、ときには滅ぼしてしまいます。
この指輪の与える約束、それは、契約という伝統がその背景にある気がします。
 
中世ヨーロッパ社会は、古ゲルマン人の風習従士制(主君に仕える代わりに武具や食料を与えられる)や、ローマ後期の恩貸地制(主君が家臣に封土を与え、家臣は主君に忠誠を誓う)を基にした封建制度の社会だったのですね。これは、主君と家臣の契約です。
また、中世ヨーロッパはキリスト教全盛の時代ですね。キリスト教も神と人との契約なのです。
神とモーセとの旧い契約が旧約(旧約聖書=Old Testament)、神とイエス・キリストとの新しい契約(新約聖書=New Testament)なのですね。
「契約」と言う考え方が、古くから受け継がれているのですね。契約、約束事はとても重んじられてきたようです。
指輪は、その約束のしるし、たとえば結婚の指輪、これは、結婚と言う約束(契約)のしるし、なわけです。
大事に肌身離さず持って、なくしてはいけませんね。
 
 
また、黄金や竜退治といった、お決まりのストーリーがありますね。
ジークフリート伝説などにもこのお話はあります。指輪物語の前の「ホビットの冒険」は、まさにそのお話です。
「ベーオウルフ」という英雄叙事詩があります。アングロサクソンの伝説を元に書かれています。アングロサクソンの王家では詩人がハープを弾きながら物語を歌われたそうです。これは、トールキンの「指輪物語」にもこうしたシーンがあります。作者のトールキンアングロサクソン研究者であり、アングロサクソン語の教授で、「ベオウルフ」の権威だったのです。「ベオウルフ」を「指環物語」の中に積極的に取り入れたのでしょう。
アングロサクソンは、ブリトン人やケルト人の後に、大陸からブリテン島に侵入したゲルマン系の民族です。ゲルマン系の伝説の流れを汲んでるといってもよいでしょう。この話は口伝であり、内容も大変ファンタスティックです。実際にあった英雄伝というよりも、吟遊詩人に語り継がれた物語なのでしょう。
ゲルマン系の英雄伝説のように竜退治や黄金や指輪が出てきますし、舞台はデンマークですから、元は北欧やゲルマンの伝説なのですね。
                                 
                                
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指輪物語」はヨーロッパ大陸の北欧やゲルマンの伝説などが、元になってると言うことがわかりますが、
ゲルマンや北欧にはない妖精の存在がありますね。
もちろん、北欧やゲルマンの神話伝説にも、妖精は登場しますが、小人とあまり区別がつけられていないところもあります。
イギリスの文学に登場する妖精はエルフであって、小人(ドワーフ)とは区別されています。
指輪物語」には、エルフとドワーフの両方が登場しますが、外見も、中身も全く違う種類です。
特に、トールキンの作り出したエルフは、それまでの取るに足らない小妖精とは違います。ケルト神話の妖精から生み出されたといわれています。
人間と同じくらいのサイズで見た目、美しくてかっこいいエルフです。ストイックなところもあり、魅力的です。「ホビットの冒険」では、あまりたちのよくない意地悪な妖精も出てきます。
一方、小人は体は小さくてどっしり、見た目はそれほどかっこよくありませんが、人間味があり、粘り強く、物を作り出す才能があります。例えば、鍛冶とかが得意です。
そういった登場人物も、決してにわかに作られたものではなく、長い間伝説の中に生きてきたものだからこそ、ファンタジーの世界でよりいっそう生き生きとしてるのだと思います。年月の流れに耐えてきたものは、やはり素晴らしいということでしょうか。
伝説に基づいて創造された物語、さらに、もうひとつ作者が意識したであろう壮大な物語がありますね。
 
「指輪」から「指環」へ、話を進めていきましょう。